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『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(85点/100点満点中)

 初老の男はこの世で極めて美しい退廃物の一つだと思う。
 もうここで人生は満足とすべきか、いや満足せぬべきか。この世のすべてを憎んで生きるべきかあたかも悟ったかのように生きるべきか。死んだように生きたくはない、しかしただ生き永らえたいとはちっとも思っていない。人間であって獣へと退化しかけている人物が、初老の男だと思う。
 憤怒と虚無を行ったり来たりしているのは若者だけではない。
 寧ろその苛立ちを言語化できる上に、余計なプライドもある分、初老の男の醜さと美しさは湖水の水面のように揺らめいて燦めくのだと思う。

 この映画は、架空の話だが架空の話ではない。
 過去に現実にバットマンを演じて不動の名声を築いた初老の主人公は落ちぶれ、再起を賭けて演劇の場を選ぶ。

 しかし演劇と映画は別物だと断言する批評家には俳優生命の死を宣告され、同業の俳優にもプロデューサーにもアシスタントである娘にもその野望は全くといっていいほど理解されない。
 主人公は初老だが、生意気な若者そのものなのである。
 初老の彼は過去の栄光から上演前も上演中も病みまくる。ほんとうはこうであってほしいという妄想劇の最悪たるものに『ダンサーインザダーク』があるが、本作の主人公もまさにそのような興奮の絶頂と絶望的な現実に揺られ続け、現実と妄想の区別がつかなくなっていく。その感情起伏の過程は一切のシーンの切り替えを行わず、最初から最後までひとつのカメラの病的な長回しで撮られており、全く見たことのない没入感で初老の異常な精神を追体験させる。音楽はドラムの音のみでこの男の狂気を即興的に浮き彫りにする。
 まさに撮影方法からして、すべてがアンチハリウッド。
 内容もそうだ。拳銃などほとんど出てこないのに主人公は見えない拳銃を自分の頭に突きつけ続け、爆発シーンなどないのに主人公の頭は破裂音が鳴り響き続けており、人は死なないのに主人公は何度も周りの人間に殺され続ける。
 どうすれば演劇は演劇でなくなるか、人生を獲得できるのか、考えた末、彼はある選択に出て、やっと自由になる。
 極めてニッチな場所のニッチな出来事を描いているのに、この初老の男は、仕事や野望を持った人物の終末のような苦悩を見事に代行したのである。
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