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『ドント・ブリーズ』(79点/100点満点中)

 今年は『イット・フォローズ』以降『アイ・アム・ア・ヒーロー』が抜群の出来過ぎて、『貞子 vs. 伽倻子』に至っては喜劇、もはやホラー映画の傑作は国産物で終了かと思いきや、数十年に一度の傑作として鳴り物入りで年末に登場したのが本作である。
 経済的事情で強盗を辞めようにも辞められない主人公の女の子と男二人は、ぺんぺん草しか生えてないような地元のデトロイトからの脱出を賭け、最後の山場として盲目の退役軍人が住む郊外の一軒家を狙うことにする。しかし、その退役軍人がその上腕二頭筋や生涯計画含め、『エクスペンダブルズ』か『グラン・トリノ』のイーストウッド並みに血の気の多い、ピュアでヤバい奴だったという話だ。
 襲う側だった筈の者が襲われる側に、そうして襲い返そうとしてもまた襲われ、お部屋の隅っこに追い込まれていく、強盗在宅家訪問劇史上シャレにならない最悪の鬼ごっこが一軒家で繰り広げられる。叫んでも半径四キロには誰も住んでいない。窓ガラスには鉄柵、玄関も裏玄関も錠で締め切られている。その閉鎖空間展開は『テキサスチェーンソー』より早く、『ホームアローン』よりクリティカル、『REC』シリーズより大胆繊細で派手である。開こうとした扉を、老人が向こう側から開けて、銃を持った老人はまだこちらに気付いていない、そして、そこから動くことができませんというシーンは、笑いがこみ上げてくるほど痛快だった。
 息すんなよ、というタイトル通り、劇場ではくしゃみも咳もできないくらいの緊張感がぶっ通しで続く。音がひとつも出ないシーンでは耳鳴りを覚えるほどである。映画館とこれほど相性の良いシークエンスはないのではないか。
 天涯孤独で孤独死まっしぐら。食料調達も覚束ないはずの老人がなぜ自死を選ばず、なにを希望に生きてきたのか、およそこの映画がホラーたる由縁の核心が最後に明かされる。全女性が生理的恐怖を免れないような使い方でスポイトが活躍するのだが、その新しさも評価しなければならないだろう。
 無音の恐怖という表現の可能性をもっと見たくなる。映画を観終わった後はあーだこーだ言い合う気力も奪われ、スポイトのことで頭が一杯になるだろう。
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『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(75点/100点満点中)

 美しい緑に輝くルーカス・フィルムのロゴが現れ、そこに"A long time ago,in a galaxy far,far away...."という水色の英文が当然のようにスクリーンに浮き上がったと同時に、公開初日だったその劇場は拍手喝采となった。これまで映画館に何百回と行ったが、そんな異様な光景は初めて目の当たりにすることである。私個人としてはその拍手で一気に興が醒めそうになったのだが、それだけに外国人観客も日本人観客も異常な集中力を注いで見るこの映画は、御祭騒ぎとしてはかなり真剣な部類に入るんだろう。とはいえ、歴代の作品ファンも、果たしてこれが作られる意義はあるのかないのか、ポップコーン映画なのかちゃんと意味のある映画なのか、異様な警戒感を持って臨んだに違いない。
 本作は、それでも見る価値があったと断言できるリリシズムに溢れている。
 惑星破壊兵器を帝国軍が完成させつつある中、エンジニアであった父親を帝国軍に引き抜かれ、母親を殺された一人の少女が、ならず者となって反乱軍にリクルートされる場面から始まる本作は、文字通り、ならず者の話であり、つまりこれまで延々と語られた、いかにも悪そうな帝国といかにも正しそうな反乱、という清廉な二項対立に物語構造を依拠させていない。主人公の女の子は、帝国も反乱も正直どうでもよく、自らの正義、つまりは親父がどっかに行ったしあたしの人生はもうどうにもならねえからとりあえずなんかをなんとかしてえ、という地下アイドルかラッパーのようなバイブスを貫通させることだけが行動規範にある。だから私軍を形成するのである。これがまず新しい。才能がどうこうとか運命がどうこうという話には全くならない。細かい面では、その流れからソードバトルも出てこない。フォースがどうとかこうとかの西洋的修練話も日本的忍び難きを忍びの話も最小限であり、いやむしろ、フォースというのは頭の狂ってる人が俺にはフォースがあるフォースがあるとブツブツ言っている概念的に無力で祈りのようなものへと葬送されている。であるからして、全編で繰り広げられるのは壮絶な肉弾戦であり、一騎打ちと言うより総力戦であり、語られるのは正義と言うより無情そのものである。
 なにより新しいのは、あるいはそもそもを考えてみればめちゃくちゃ新しかったのは、あの映画のポスターで顔見世されていた人間が、そういえばその前篇後編にも全然いないキャラクターたちばかりである、ということである。これがどういうことを意味するのか、本編がクライマックスを迎える時痛いほど分かってくるのだ。
 劇中、莫大な登場人物が新しい土地名と共に隅田川花火のように湧いて出てくるため、余程高速処理ができる頭でないとどこで誰がいまどこの誰のことを言っているのか、軽い混乱を来すほどの速さで物語は展開する。
 正直言って、もはや主人公の名前も思い出せないほどなのだが、この映画、登場人物の名前などあえてどうでもいいという設計の元で作られた節がある。なぜならシリーズ上、名前すら残らなかった者たちの、ハッピーエンドが決して用意されていないスター・ウォーズなのだから。

『海賊とよばれた男』(65点/100点満点中)

 東京大空襲のシーンから始まる本作は、それでも反戦映画ではない。寧ろ戦争がなければ成立しない感動というものを徹底的に商業映像化した、青い血の人は一滴も涙を流せないが九十九パーセントの日本人の涙腺はちゃんと刺激するよう完璧に計算された起業家ドラマである。ほら泣けるっしょ、え、泣くよね、ほら泣いてもいいんだぞ、という監督の声が全編に轟くようであるが、事実、涙腺が非常に弱く作られた私はたくさん泣かされたので、もうなにも文句は言えん。
 北九州市のチャッキチャキで暴力的、激情的な気風を持った商人であり零細会社社長の岡田君は、世界がいつか石油を中心に回ると予見していた。その確信を元に、天才的あきんど精神で、売れ残った軽油をまずは北九州市中心に、そうして排他的商圏を飛び越えて自市から他市に、他県に、他国へと、敵の数を倍加させながら海賊ばりに商圏拡大させていく過程で遭遇する、ありとあらゆる障害と挫折とその克服を描き、零細会社が大企業へと成長していく話が本作である。
 特殊能力のないワンピースの実写版みたいな話とも言えようか。三十代から九十代までを演じ分ける岡田君にもうジャニーズの面影はない。あんまり汚れ切ったりもしないディカプリオのような様相だった。

 現代からすれば石油は遠い化石のような話であるのに本作がいま公開されるのは、戦前戦後、その裏で四六時中経済戦争を繰り返した男のサクセスストーリーでありながら、その男の下で働いた男たち、つまりはひとつの理想の労働モデルを描いた話でもあるからである。
 カリスマティックな経営者による即断即決の感情経営、現場主義、採用方針。その下で幸福に働きながらも、時には命を賭した忠誠を社長に見せる社員たち。
 無職やフリーターが見たら失明するんじゃないかと思うほど、働く喜びに満ち溢れた映像の連続である。戦争という巨大な物語がない若者にとって、昔は良かったんだなあ、あんな人がいたら残業とかもちょっとはしちゃうかもな、いう月並みな感想に終わってしまいかねない、というか終わるに違いないほどの圧倒的感動劇。
 この話がいま是非とも必要な時代かどうかと言えば、必要だと断言するのは難しいと言わざるを得ない。近代史を描いた時代劇としてはかなり新鮮な角度と彩度の映画ではある。

 唯一、この映画のとても良い点を挙げるなら、サイコパスは経営者にめちゃくちゃ多いなどと嫌儲的精神が蔓延する現代に、ちゃんと日本にもサイコパスのような経営者がいたことを描いたこと、そしてその経営者になるにはほとんど海賊という蔑称を与えられてもガハハと笑い飛ばすくらいの精神が必要だぞと言い切った点である。大企業ってやっぱすげえ歴史があるんだぞ、と言い切るには、このくらいの金を掛けて描かないと成立しない前例を作ったものとしては、非常に意義があると思った。
 とすれば本作、意識が高い人、個人事業主かそれ志望の人にはピッタリの映画であると言える。

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