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『ストレイト・アウタ・コンプトン』(75点/100点満点中)

 フリースタイルダンジョンの流行は絶頂期を迎えた。
 かつての反体制の代表格文化であるヒップホップ、そしてラップバトルは良くも悪くも液状化し、そして商業化されたといえる。
 ZEEBRAがその立役者になるとは到底予想できなかった。十数年前からヒップホップのアンダーグラウンド感を否定し、とはいえ放送禁止用語だらけのシングルを出して発禁・CD回収騒ぎも起こしたあの可愛らしいZEEBRAが、今や地上波の人気番組の司会をしている。彼がかつてはディスったKREVAはラップバトルを封印しポップなトラックメイカーとしても曲を出せば最も売れるヒップホップアーティストとなった。彼が公開処刑したKJは全く別の方向性を見出し今でもライブで精力的に活動している。ディスるとはつまり、相手の方向性を決定づける要因にもなりえるのは、とても面白いことである。ディスられた側も、アンサーしないことも一つのアンサーになるのだ。
 同番組をずっと見ているとディスるのがうまいのと曲作りがうまいのとはまた違うということがだんだんわかってきて面白い。
 
 ラップはもうアンダーグラウンドではないのだ。テレビで面白いものが見れるのはとてもいいことである。
 そしてそんなラップバトルを最初に描いた『8 mile』は不朽の名作だった。かつての殺し合いの解決がラップバトルだったということは見落とせない。そんな血で血を洗う言葉の戦争であるヒップホップアンダーグラウンド史、その元の元をたどれば、どこに行き着くのか。誰が主役だったのかを、といった根源的なドキュメントをこの映画は描いている。

 黒人が何人か道で集まって談笑しているだけで警察から職務質問や身体検査、解散命令を受けるという最悪な人種差別が横行する時代環境で、こんな最悪な街で車をぶっ飛ばしてる俺は最高にクール、だの、白人野郎の警察どもに中指を突き立ててやる、超かわいい姉ちゃんとその後ファックしてやる、といった叫びをビートの上でリリックに落としてラジオでヘビーチューン化させた伝説的なラップグループがいた。どんな声でもスプリットアウトするようにかっこいいセリフを吐き捨てれば、それだけで格好良くなるのがまさにヒップホップに許された特権だったのだ。
 同時代の才能は才能を呼び寄せた。
 音作りの才能、攻撃的な歌詞の才能、営業の才能、プロデュースの才能、ライブの才能である。
 しかし彼らもまた激し過ぎるバンドと同じ運命を辿ることになる。熾烈な反体制文化を築き上げたその頂点で、彼らが享受する贅はやがてその友情をもバラバラに引き裂いてしまう。そしてバラバラになった後も、それぞれの生き方の違いが克明に描かれる。

 この映画は日本での興行が見込まれなかったためか短期的な上映期間しか設けられなかった映画である。

 曲作りという、そんなにカジュアルにできるものでもないと思われた行為が、とてもチャーミングな欲望とありのままの叫びで成り立っていたのだということをこの映画は教えてくれる。
 彼らは社会をディスり、警察にライブを壊される。しかしそれがいまや伝説となっている。なにかをディスることが自分と他者を決定づけるのは、個人対個人間だけではなく個人対歴史間でもあるのだ。
 
 ちゃんと言いたいこと言えてるのかなと思った時に見ると望外の爽快感を得られる、そんな映画である。
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