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『男と女』(88点/100点満点中)

 世界中の個性的なスイーツやケーキを食べ尽くした後、ひとつの極平凡なショートケーキにありついたとしたなら、その完璧な出来に打ちのめされるに違いない。甘いものに変な着色料は要らないのである。チョコもいらないのである。
 最小限の音数で、深く哀しく知的な音を出せるのが最高のギタリストだと喝破したのはとあるジャズブルースバンドの女性ボーカルだが、ショートケーキもそうであれば、映画もそうでなのであった。
 『男と女』という華美なタイトルが付けられた本作はショートケーキのような映画である。

 妻を失った男と、夫を失った女が、パリの郊外で出会う。女は映画産業に従事し、男はカーレーサーである。本作において死は、ショートケーキで言うイチゴのように、決して幸福な結末は用意されていないおとぎ話のように、ふたりを雨雲のごとく押しつぶしている。
 最愛の者を失った者同士である。いわばすいもあまいも知り尽くしている。
 フランス映画で昔の映画といえば、ただ甘ったるい会話が続くのかと思えば、そうではないのだ。愛してるか愛してないかなどの愚問をフランス人はデート中に提起しない。そんなことはベッドで確認するしかないのだ。二十代が相手の言葉の量で恋愛をするのであれば、三十代は言葉の質で、四十代は言葉を使わずに恋愛をするのだろうか。

 恋文の電報を出されて有頂天になる男、しかしそれでいて女はどこか心は上の空のまま、男と女が迎えるベッドシーンは、この描写のために映画があったのだ、と強く確信させる出来である。およそ無数のカットが交錯するベッドシーンがこの映画以後現れなかったのは、約半世紀この映画を越えられるシーン構成を誰も思いつかなかったからである。

 この映画はデジタルリマスター版として恵比寿ガーデンシネマで公開されていた。恵比寿といえばブルジョワの暇潰しのためにある、非常にいけすかない街である。しかしこの高飛車な街で日曜日の午後に見たこの映画は良かった。ブルジョワでいけすかない、しかしどこか完璧に正しい、まさに一生かかっても手に入れられない象徴のような、そんな本作は、完璧なショートケーキなのであった。
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