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『ファイト・クラブ』(99点/100点満点中)

 映画『ファイト・クラブ』が好きだという男は、最低な男が多い。
 私も100回以上この映画は見ている。
 だからあえて言うが、そういう男は、人として、大変信頼できる男である。

 『ショーシャンクの空に』が人類史最高傑作だと言い出す、ちょっとばかし心の小綺麗な人間の、約五億倍は信頼できる男である。
 これが好きな文系の男は厄介で悪質で陰険な男が多いという女がいる。仰る通りである。しかし厄介なのは、女にとってだけだ。男にとってではない。男はこの映画を必ず好きになる。必ず廃墟に住みたくなる。トイレにコンドームを流してみたくなる。必ず私軍を結成したくなる。
 この映画を見せた高校の同級生は事実廊下で即席のファイト・クラブを結成し、休み時間の合間を縫っては殴り合いを始めたものであった。また当時この映画を見たアメリカの少年は実際にスターバックスを爆破したらしい。
 
 大人は青年の裏切られた姿である、と太宰治が言ったが、まさに本作はそんな裏切られた青年である主人公、その信頼できない語り手の莫大な独白によって、なによりも信頼できる作品を作り上げる壮絶な逆転を起こし、ついでに成績的に当時大赤字を起こしFOXの経営まで傾かせた、そんな可愛い男の男による男のための映画である。

 主人公には名前がない。
 都会のエスタブリッシュメントとしてIKEAで北欧家具を揃え(友人にはこの類が多い、ほんと死ねばいいのに)、アルマーニのタイとカルヴァンクラインのスーツで洒落込んだ、お肌の青白い独身貴族の自動車保険会社に勤める不眠症の男である。青白い社会人の哲学は俗物を極めている、が、多かれ少なかれ、我々だって、思い出したみたいに紅葉を見に行ったり美術館に行ったり映画館に行ったりしてなんとなく文化的なフリをし、深夜はコマーシャルを見てちょっとその商品を試したくなったりする、安全地帯で悪俗と資本主義を極める時代の申し子なのだ。
 主人公には名前がない、その匿名性の所以は、作品としての普遍性の獲得でもあれば、劇中で簒奪された固有性の象徴だという考察はすでに山程書かれていることである。でもどうだろう。厳密にはこの時代、人間には名前があるようでないのだ。中年の、ただルーティンワークをこなすだけの男にはいつまでも代替可能性が付きまとう=自分の名前などほとんどとっくに無効になっている。
 そんな虚無そのものの彼が移動中の飛行機で、もっとやべえ独り言をしている鬼カッコいいブラピと出会い、瞬く間に共同生活を始め、殴り合いをし、地元の悪そうな子をみんな部下とし、地下組織を結成し、肉体とか都会を破壊しまくって行くのは、男の夢がこれでもかというほど叶っていく贅沢で文句の付けようが全くない展開である。
 劇中、社会論組織論仏教論宗教論暴力論独我論にまで踏み込んで、さらには至極の恋愛論にまで持っていく完璧な展開。デイヴィッドフィンチャーはこれ以降多様な作品を作ってきたとはいえ、本作を越えられることなどまず不可能である。十三歳の時に地上波で放送されてるのを見ようとしたら母に怒号とともに「見ちゃダメ」と叫ばれたのを私は昨日のことのように思い出せる。母の言うことはある意味、全然間違っていなかった。

 で、この映画、今また見返して、どうすればいいのかと考えた。

 この映画が出た時はまだソーシャルメディアのひとつもない時代だった。今でも、君の名前が分からない男女の映画やツイッターで暴れまわる何者や世界を股に掛けて暴れまわるジェイソンボーンみたいな、つまりは自我と他者とに猛烈な断絶を感じ続ける人間の話が連続しているわけである。特に邦画の二作に関しては、言葉の無効性が、ジェイソンボーンに関してはまあアクションなので当然のことながら、言葉使って喋るのもうやめにしませんか、フルアタックで行きませんかというようなことが何度も説かれているように思える。映画なんだから、架空なんだから、それはそれで当然のメッセージかもしれない。
 じゃあファイトクラブはどう終わるべきだったかというに、やはりブラピは元気なままでいるべきだったのだ。分裂したまんま世界は終わったり終わらなかったりすればよかったのだ。悪は悪のままでよかったのだ。何者も何者として生きていくのが最も破壊的で創造的だった可能性もあろう。君の名はきっと分からないまますれ違えばおよそファンタジーの域にも現実の域にも脱落せず、名作になっていたに違いあるまい。
 ファイトクラブがあまりに良すぎてブラピの映画は律儀に映画館に観に行く人間はいまでも多数いるはずである。しかし以後のブラピはひどく内省的である。アンジェリーナ・ジョリーのことなんてどうでもいいし、養子のことなんてもっとどうでもいいから、ブラピにはただただやばい男でいて欲しい。
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