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『海賊とよばれた男』(65点/100点満点中)

 東京大空襲のシーンから始まる本作は、それでも反戦映画ではない。寧ろ戦争がなければ成立しない感動というものを徹底的に商業映像化した、青い血の人は一滴も涙を流せないが九十九パーセントの日本人の涙腺はちゃんと刺激するよう完璧に計算された起業家ドラマである。ほら泣けるっしょ、え、泣くよね、ほら泣いてもいいんだぞ、という監督の声が全編に轟くようであるが、事実、涙腺が非常に弱く作られた私はたくさん泣かされたので、もうなにも文句は言えん。
 北九州市のチャッキチャキで暴力的、激情的な気風を持った商人であり零細会社社長の岡田君は、世界がいつか石油を中心に回ると予見していた。その確信を元に、天才的あきんど精神で、売れ残った軽油をまずは北九州市中心に、そうして排他的商圏を飛び越えて自市から他市に、他県に、他国へと、敵の数を倍加させながら海賊ばりに商圏拡大させていく過程で遭遇する、ありとあらゆる障害と挫折とその克服を描き、零細会社が大企業へと成長していく話が本作である。
 特殊能力のないワンピースの実写版みたいな話とも言えようか。三十代から九十代までを演じ分ける岡田君にもうジャニーズの面影はない。あんまり汚れ切ったりもしないディカプリオのような様相だった。

 現代からすれば石油は遠い化石のような話であるのに本作がいま公開されるのは、戦前戦後、その裏で四六時中経済戦争を繰り返した男のサクセスストーリーでありながら、その男の下で働いた男たち、つまりはひとつの理想の労働モデルを描いた話でもあるからである。
 カリスマティックな経営者による即断即決の感情経営、現場主義、採用方針。その下で幸福に働きながらも、時には命を賭した忠誠を社長に見せる社員たち。
 無職やフリーターが見たら失明するんじゃないかと思うほど、働く喜びに満ち溢れた映像の連続である。戦争という巨大な物語がない若者にとって、昔は良かったんだなあ、あんな人がいたら残業とかもちょっとはしちゃうかもな、いう月並みな感想に終わってしまいかねない、というか終わるに違いないほどの圧倒的感動劇。
 この話がいま是非とも必要な時代かどうかと言えば、必要だと断言するのは難しいと言わざるを得ない。近代史を描いた時代劇としてはかなり新鮮な角度と彩度の映画ではある。

 唯一、この映画のとても良い点を挙げるなら、サイコパスは経営者にめちゃくちゃ多いなどと嫌儲的精神が蔓延する現代に、ちゃんと日本にもサイコパスのような経営者がいたことを描いたこと、そしてその経営者になるにはほとんど海賊という蔑称を与えられてもガハハと笑い飛ばすくらいの精神が必要だぞと言い切った点である。大企業ってやっぱすげえ歴史があるんだぞ、と言い切るには、このくらいの金を掛けて描かないと成立しない前例を作ったものとしては、非常に意義があると思った。
 とすれば本作、意識が高い人、個人事業主かそれ志望の人にはピッタリの映画であると言える。
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